能「弱法師」シテ:奥川恒治より
15年前に自身の会を立ち上げ、その時の1回目の曲が「弱法師」でした。この度15年ぶりの再演となり、盲目之舞(もうもくのまい)という替えの演出で上演させていただきます。俊徳丸を一人の芸能者と見ますと、舞を舞うことも可能になるのですね 。
主人公俊徳丸は盲目のため、匂いが重要な役割を果たし、ここでは「梅の香のきこえ候う」と、梅花の香りから、梅に因んだ物語になります。ご本尊の前に座り、俊徳丸は四天王寺の縁起を語り(ここでは地謡が代弁します)ます。やがて日想観(じっそうかん)の時になります。日想観とは彼岸の中日に、夕日に向かって拝むと、西方極楽浄土へと導いてもらえるという考え方です。夕日を一身に浴びて、念仏を唱える俊徳丸。そしてこの度の眼目、盲目之舞へと進んでいきます。杖と扇を駆使した難しくも、風情の良い舞です。更に俊徳丸は以前に見ていた景色を、見えていると歓喜し、あちらこちらと動き回ります。そこは盲目の悲しさ、行き来する人にぶつかり転倒してしまいます。苦労の末、壊れてしまった部分を抱える俊徳丸に、父親は声を掛け共に帰って行くのでした。
親子の情愛を根底に、盲目之舞の小書演出で、遊狂色をより華やかに演出できると思います。梅香溢れる四天王寺が舞台の「弱法師」、ご高覧願えますと幸いに存じます。
奥川恒治HP「能のHana」でも『弱法師』の見どころを連載中です。
こちらも併せてお楽しみください。
第1回 2020年02月03日
第2回 2020年02月04日
第3回 2020年02月05日
第4回 2020年02月06日
第5回 2020年02月08日
第6回 2020年02月11日
第7回 2020年02月13日
能「藤」シテ:永島充より
「藤」は越中(富山県)の多胡の浦という藤の名所を舞台にした曲です。
この地を訪れた旅僧(ワキ)が
「おのが波に 同じ末葉の 萎れけり藤咲く多胡の 恨めしの身ぞ」
という和歌の口ずさむとそれをたしなめるように、女(シテ)が現れます。
藤の名所なのに、末葉の萎れけりなんて古歌を口ずさむとは……
「多胡の浦や 汀の藤の 咲きしより 波の花さへ 色に出でつつ」
と詠む歌もありますよと登場します。
藤は景色も美しい曲ですが、言葉にも美しさを求めているようです。
※2020年2月の記事を編集して再掲しています